海苔にヒ素は含まれる?ひじきとの違いとカドミウムの話を公的データで検証
「海藻にはヒ素が含まれている」という話を聞いて、海苔を食べても大丈夫なのか心配になったことはないでしょうか。2004年にはイギリスの食品基準庁が、日本産のひじきについて「食べないように」と消費者に助言したことが大きく報道され、海藻とヒ素の関係が広く知られるようになりました。では、同じ海藻である海苔はどうなのでしょうか。結論からいえば、海苔にも微量のヒ素は含まれますが、その性質と量はひじきとは大きく異なります。この記事では、農林水産省の実態調査や食品安全委員会の評価をもとに、海苔に含まれるヒ素の種類と量、ひじきとの違い、そしてカドミウムについて、公的なデータで確認していきます。
ヒ素には「無機ヒ素」と「有機ヒ素」がある
まず知っておきたいのは、ヒ素には大きく分けて2つの種類があることです。食品安全委員会の解説によると、ヒ素は単体のほか、炭素や酸素などと結びついた化合物として環境中に存在しており、炭素を含むものを有機ヒ素、炭素を含まないものを無機ヒ素と呼びます。
健康への影響で問題になるのは、主に無機ヒ素です。食品安全委員会は、海外で無機ヒ素を含む井戸水を飲み続けている地域の住民の調査から、長期的な摂取による発がん性や皮膚への影響などを挙げています。一方、有機ヒ素については、ヒトの体内でどのような影響があるのかよく分かっていないものの、欧州食品安全機関(EFSA)や米国食品医薬品局(FDA)の評価では、一般に無機ヒ素に比べて悪影響の程度は小さいとされています。
農林水産省によると、昆布やわかめなどの海藻や魚介類に含まれるヒ素は、そのほとんどが「アルセノベタイン」や「アルセノシュガー(ヒ素糖)」といった有機ヒ素です。つまり、海藻にヒ素が含まれるといっても、どの種類のヒ素なのかが重要なのです。ヒ素は自然環境に広く存在する元素で、飲み水や米、魚介類など、さまざまな食品に微量に含まれています。
農林水産省によると、ヒ素は地殻に分布し、火山活動や鉱物の風化などの自然現象によって環境中に放出されるほか、金属の精錬などの産業活動によっても放出されます。そのため、ヒ素を食品からまったくなくすことはできません。こうした意図せず食品に含まれる有害な化学物質については、生産から消費までの段階で適切な措置をとり、合理的に可能な範囲で量を減らすべきだというのが、国際的に合意された考え方です。
海苔とひじきのヒ素を数字で比べる
農林水産省は2006〜2008年度に、海藻類に含まれる総ヒ素と無機ヒ素の量を調査しています。その結果をまとめると、次のようになります。
| 海藻(乾物) | 総ヒ素の平均 | 無機ヒ素 |
|---|---|---|
| のり | 25mg/kg(13〜51) | 全試料が定量限界(0.5mg/kg)未満 |
| わかめ | 33mg/kg(15〜52) | 全試料が定量限界(0.5mg/kg)未満 |
| こんぶ | 53mg/kg(25〜110) | 全試料が定量限界(0.5mg/kg)未満 |
| ひじき | 93mg/kg(28〜160) | 平均67mg/kg(4.5〜130) |
出典:農林水産省「食品に含まれるヒ素の実態調査」(海藻類、2006〜2008年度)。のり・わかめは100点、こんぶは総ヒ素200点・無機ヒ素100点、ひじきは299点を分析。
のりの総ヒ素は乾物1kgあたり平均25mgで、海藻の中では比較的少ない部類です。そして注目すべきは無機ヒ素です。のり、わかめ、こんぶでは、分析した試料のすべてで無機ヒ素が定量限界(1kgあたり0.5mg)を下回り、量を測れないほど少ない結果でした。これに対して、ひじきは無機ヒ素が平均で1kgあたり67mgと、ほかの海藻とは桁違いに多く含まれていました。
焼き海苔1枚(約3g)に当てはめると、総ヒ素は平均で約75μg(0.075mg)ですが、その大部分は有機ヒ素と考えられ、無機ヒ素は定量限界から計算しても1枚あたり1.5μg未満です。食品安全委員会も、ひじきは発がん性が認められている無機ヒ素を多く含む一方、その他の海藻は毒性の低い有機ヒ素(主にヒ素糖)を含むと整理しています。「海藻のヒ素」の問題は、実質的にはひじきの問題だといえます。
海外の研究でも、海藻の種類による違いが確認されています。2024年に科学誌Scientific Reportsに掲載されたアメリカの研究では、11人のボランティアに海苔、昆布、わかめをそれぞれ一定期間食べてもらい、尿中のヒ素やヨウ素などの量を調べました。その結果、海藻を食べた後には尿中の総ヒ素が増え、その影響は特にわかめを食べた後で大きかったと報告されています。総ヒ素の量だけでなく、どの海藻をどのくらい食べるかによって、体に入るヒ素の量は変わるのです。
日本人はどの食品からヒ素をとっているのか
農林水産省がまとめた摂取量の推計によると、日本人は食品からとる総ヒ素の大部分を、魚介類、野菜・海草類、そして米からとっていると考えられています。野菜類のヒ素は概して少なく、昆布やわかめなどの海草類の総ヒ素濃度が比較的高いことから、「野菜・海草類」から摂取するヒ素のほとんどは海草類由来と考えられています。
一方、毒性の強い無機ヒ素については、米からの摂取が3分の2程度を占め、次いで「野菜・海草」と推計されています。米とひじきは、含まれるヒ素に占める無機ヒ素の割合がほかの食品より大きいことが確認されており、この推計と整合しています。つまり、日本人の無機ヒ素の主な摂取源は米であり、海苔ではありません。
そのうえで、食品安全委員会は「日本において、食品を通じて摂取したヒ素による明らかな健康影響は認められておらず、ヒ素について食品からの摂取の現状に問題があるとは考えていない」としています。そして、特定の食品に偏らず、バランスのよい食生活を心がけることが重要だとしています。
参考までに、厚生労働省の2004年度のトータルダイエット調査では、日本人が食品からとる総ヒ素は1日192μgと推計されていました。焼き海苔1枚の総ヒ素(約75μg)は数字だけ見ると小さくありませんが、その大部分は毒性の低い有機ヒ素であり、無機ヒ素の主な摂取源は米であることを踏まえて考える必要があります。
海藻に含まれるヒ素の多くは毒性の低い有機ヒ素。無機ヒ素が多いのはひじき
ひじきはどう食べればいい?水戻しとゆでこぼしの効果
海苔の話からは少し外れますが、ひじきについても公的な見解を確認しておきましょう。厚生労働省の「ヒジキ中のヒ素に関するQ&A」(2004年)によると、海苔や昆布などを含む海藻の日本人の1日あたりの摂取量は14.6g、そのうちひじきは約0.9g(水戻し後)と推計されています。なお2004年には、イギリスに続いてオーストラリア・ニュージーランドの食品基準機関やカナダの食品検査庁も、消費者にひじきを食べないよう助言しています。イギリスの食品基準庁が調べた水戻し後のひじきの無機ヒ素は最大で1kgあたり22.7mgでしたが、仮にこのひじきを食べるとしても、毎日4.7g(1週間で33g)以上を継続的に食べない限り、当時の国際的な暫定耐容週間摂取量を超えることはないとしています。
また、調理によってヒ素は大きく減らせます。食品安全委員会の調査資料で紹介されている研究では、ひじきを水で戻すだけで常温で35〜60%のヒ素が除かれ、さらに煮てゆで汁を捨てる方法を組み合わせると、合計で約8〜9割のヒ素が除かれたと報告されています。ひじきを食べるときは、水戻しの水やゆで汁を捨てるという日本の伝統的な調理法が、ヒ素を減らすうえでも理にかなっているのです。
一方、海苔は、そもそも無機ヒ素が量を測れないほど少ないため、このような下処理を気にする必要はありません。焼き海苔をそのまま食べても、ヒ素の面で特別な心配をする必要はないといえます。
カドミウムはどうか:主な摂取源は米と野菜
ヒ素と並んでよく話題になる重金属がカドミウムです。カドミウムも自然界に広く存在し、土壌や海水から食品に取り込まれます。食品安全委員会の評価資料によると、2020年の日本人のカドミウム推定摂取量のうち、最も寄与が大きいのは米とその加工品(32.6%)、次いで「その他の野菜・海草類」(18.0%)でした。推定摂取量は、食品安全委員会が設定した耐容週間摂取量(体重1kgあたり週7μg)の約30%とされています。
食品中のカドミウムについては、国際的な食品規格を定めるコーデックス委員会が、精米(1kgあたり0.4mg)や小麦、野菜、二枚貝などに国際基準値を設けています。日本でも米のカドミウムは1kgあたり0.4mg以下という基準があります。海苔について個別の基準値は設けられておらず、本記事の執筆時点では、海苔に限ったカドミウム含有量の公的な調査データは見当たりませんでした。ただし、海苔を含む「野菜・海草類」全体でも摂取量の約2割、全体の摂取量も耐容量の約3割にとどまっています。
ヒ素もカドミウムも、特定の食品だけを避ければ解決するものではなく、さまざまな食品から少しずつとっているのが実態です。公的機関が繰り返し強調しているのは、特定の食品に偏らないバランスのよい食生活です。海苔は、ふだんの食事の範囲で安心して楽しめる食品といえるでしょう。
この記事のまとめ
ヒ素には毒性の強い無機ヒ素と、比較的影響の小さい有機ヒ素があり、海藻に含まれるヒ素の多くは有機ヒ素です。農林水産省の調査では、のりの総ヒ素は乾物1kgあたり平均25mgで、無機ヒ素は全試料が定量限界未満でした。一方ひじきは無機ヒ素が平均67mg/kgと桁違いに多く、海藻のヒ素の問題は実質的にひじきの問題です。日本人の無機ヒ素の約3分の2は米由来で、食品安全委員会は食品からのヒ素摂取の現状に問題はないとしています。カドミウムも主な摂取源は米で、推定摂取量は耐容量の約3割です。偏らない食生活の中で、海苔は安心して楽しめる食品です。