海中に広がる赤い海藻

海苔の脂質の半分はEPA?青魚と同じ脂肪酸を持つ珍しい海藻の、知られざる脂の話

EPA(エイコサペンタエン酸、イコサペンタエン酸とも)と聞くと、サバやイワシなどの青魚を思い浮かべる人が多いでしょう。血液中の中性脂肪を下げる働きなどが知られ、サプリメントや医薬品にも使われている脂肪酸です。実はこのEPAが、海苔の脂質の主成分であることはあまり知られていません。海苔に含まれる脂肪酸のおよそ半分がEPAで、これはほかの植物や多くの海藻にはない特徴です。とはいえ、海苔の脂質の量そのものはごくわずかで、しかも体内でどれだけ利用されているのかには、まだ分かっていないことも多くあります。この記事では、食品成分表と大学の研究をもとに、海苔の脂質とEPAの「すごさ」と「限界」の両方を紹介します。

海苔の脂質はわずか3.7%、でも中身が特別

文部科学省の日本食品標準成分表(八訂)によると、焼きのりの脂質は100gあたり3.7gです。たんぱく質(41.4g)や食物繊維(36g)に比べるとごくわずかで、海苔は脂質の少ない食品だといえます。焼き海苔1枚(約3g)に換算すると、脂質は約0.11gにすぎません。

しかし、そのわずかな脂質の中身が特別です。同じ成分表の脂肪酸成分表編によると、焼きのり100gに含まれる脂肪酸の総量2.14gのうち、EPA(イコサペンタエン酸)は1,200mgを占めています。脂肪酸の半分以上がEPAという計算です。一方、植物油に多いα-リノレン酸はわずか4mgで、魚に多いDHA(ドコサヘキサエン酸)は検出されていません。

焼きのり 100gあたり 量
脂質 3.7g
脂肪酸の総量 2.14g
n-3系多価不飽和脂肪酸 1.19g
うちEPA(イコサペンタエン酸) 1,200mg
α-リノレン酸 4mg
アラキドン酸(n-6系) 98mg
DHA(ドコサヘキサエン酸) 検出されず

出典:文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年 脂肪酸成分表編」焼きのり。

一般財団法人海苔増殖振興会のエッセイで、天野秀臣氏は、海苔の脂肪酸のうちEPAが脂肪酸総量の54.5%と極めて多いことを紹介し、これが海藻を含めほかの植物にはない海苔の特徴だと述べています。EPAは魚がつくるのではなく、もともと海の藻類がつくり、それを食べた魚に蓄積されると考えられています。海苔は、その「つくる側」の生き物なのです。

EPAとはどんな脂肪酸か

脂肪酸は、脂質を形づくる成分で、構造によって飽和脂肪酸、一価不飽和脂肪酸、多価不飽和脂肪酸に分けられます。多価不飽和脂肪酸はさらにn-3系とn-6系に分かれ、EPAはn-3系の代表的な脂肪酸です。天野氏の解説によると、私たちが体内で合成できない必須脂肪酸はリノール酸とα-リノレン酸の2種類で、EPAは必須脂肪酸ではないものの、特徴的な生理機能を持つ脂肪酸です。

EPAには、血小板が固まるのを抑えて血栓ができにくくする作用や、血液中の中性脂肪を減らす効果があるとされています。佐賀大学の解説によると、EPAは特定保健用食品や健康食品だけでなく、高脂血症を治療する医薬品としても利用されています。また、EPAやDHAのようなn-3系の脂肪酸は、生活習慣病やメタボリックシンドロームの予防の観点から、先進国では摂取量が不足していることが指摘されています。

天野氏は、近年はn-3系とn-6系の脂肪酸の摂取バランスが大切だといわれるようになったことも紹介しています。海苔の脂肪酸は、飽和脂肪酸が100gあたり0.55g、一価不飽和脂肪酸が0.2gで、両者を合わせても脂肪酸総量の約3分の1にとどまり、残りの多くをEPAを中心とする多価不飽和脂肪酸が占めています。動物性の脂肪とは大きく異なる、海の植物ならではの組成といえます。

海苔1枚のEPAは何mg?

では、焼き海苔1枚にはどのくらいのEPAが含まれているのでしょうか。成分表の値(100gあたり1,200mg)から計算すると、全形1枚(約3g)で約36mgになります。

一方、佐賀大学の研究グループは、乾海苔1枚には60mg前後のEPAが含まれていると発表しています。同グループが2021年に発表した論文では、実験に使った海苔1gあたりのEPAは21.9mgで、脂肪酸の54.2%を占めていました。成分表の値と差があるのは、試料の産地や時期、等級、乾海苔か焼海苔かといった違いによるものと考えられます。天然の食品の成分にはばらつきがあり、1枚あたり数十mgという幅で捉えるのが現実的です。

この量は、青魚と比べるとかなり少ないものです。天野氏も、海苔を一回に食べる量は多くても全形1枚程度で、取り込む成分は100gあたりの3%になること、そして海苔は脂質の含量が少ないので、通常の食べ方であれば脂質の過剰摂取を心配する必要はないと述べています。海苔は、EPAの主要な供給源というより、ほとんどカロリーを増やさずにEPAを少し上乗せできる食品と考えるのがよいでしょう。

仮に1日3枚の焼き海苔を食べたとすると、EPAは成分表の値で約110mg、佐賀大学の報告の値なら約180mgになります。そのエネルギーは合計で30kcal弱です。脂質をほとんど増やさずにEPAを含む食品は、青魚以外にはあまり多くありません。

巻きすの上のサーモンの細巻き

EPAは青魚やサケなどに多い脂肪酸。海苔は脂質こそ少ないが、その半分以上がEPA

海苔のEPAは体に吸収されているのか

海苔のEPAについて、研究者が注目しているもうひとつの点が吸収の問題です。佐賀大学の発表によると、海苔のEPAは魚の油のような形ではなく、細胞の中の糖脂質やリン脂質などに結びついた形で存在しています。さらに、海苔の細胞の間は、消化されにくい多糖類のポルフィランで埋められています。ポルフィランは乾海苔の重さの約3分の1を占めるとされます。

佐賀大学のグループは、こうした理由から、海苔に含まれるEPAなどの脂溶性成分の多くは、ヒトの体内で消化吸収されずに排泄されていると考えられるとしています。ただし、摂食後のヒトの体内での動きは詳しく解明されていないとも述べています。成分表に書かれたEPAの量が、そのまま体に取り込まれているとは限らないのです。

興味深いことに、EPAの「形」も働きに関わる可能性があります。佐賀大学のグループの論文によると、食品中のEPAは通常、脂質に結びついた形で存在し、体内で消化・吸収されてから働きます。一方、脂質から切り離された遊離の形のEPAは、消化・吸収される前に、腸の表面にある受容体に結びついてホルモンの分泌を促し、生活習慣病の予防につながる働きを示すことが報告されているといいます。含まれている量だけでなく、どのような形で存在しているかも重要だと考えられているのです。

そこで同グループは、海苔のEPAを利用しやすくする方法を研究しました。海苔を麹(こうじ)と塩と一緒に30℃で発酵させたところ、時間とともにEPAが脂質から切り離されて遊離し、8〜10週間後には海苔1枚分に含まれるEPAのうち約3分の2にあたる40mg以上が遊離していました。同時に、ポルフィランも6週間で約3分の2が分解され、小さなオリゴ糖になっていました。研究グループは、この海苔の麹発酵食品はみそと同じように使えて、非常においしいと紹介しています。

この研究では、大麦の麹と米の麹のどちらでも、発酵によってEPAが遊離することが確認されました。大豆の麹でも発酵の初期には同じ変化が見られましたが、表面にカビが生えたため試験を途中で終えています。研究グループは、海苔に簡単な加工を施すことで生活習慣病の予防という付加価値を与えられる可能性があるとして、海苔の新しい利用法として期待を示しています。

動物実験で見えてきた「ノリ脂質」の可能性

海苔の脂質そのものの働きを調べた研究もあります。佐賀大学の長尾浩二氏らは、海苔から取り出した脂質(ノリ脂質)を肥満のモデルマウスに与える実験を行っています。2020年に発表された研究では、EPAを含む海苔の極性脂質が、肥満マウスの脂肪肝を軽減したと報告されています。

2025年の総説では、遺伝子の働きや代謝物、脂質メディエーターなどを網羅的に解析した結果が紹介されています。肥満マウスでは炎症に関わるω6系の物質が増えていましたが、ノリ脂質を与えると、ω6系の物質が減り、ω3系の物質が増える変化が見られました。特に、EPAから作られる抗炎症性の物質が増えていたことが確認されています。

ただし、これらはマウスに海苔から抽出した脂質を与えた実験で、ヒトが焼き海苔を食べたときに同じことが起こるかは分かっていません。海苔の脂質は量が少なく、吸収の問題もあることを考えると、海苔を食べることで血中の中性脂肪が下がるといった効果を期待するのは早計です。EPAを積極的にとりたい場合は、青魚を食べることが基本になります。

それでも、海苔が「脂質は少ないのに、その半分以上がEPA」という珍しい食品であることは確かです。発酵などの加工によってその成分を引き出す研究も進んでいます。毎日の焼き海苔に、そんな科学の物語が詰まっていると思うと、少し違った味わいが感じられるかもしれません。

この記事のまとめ

焼き海苔の脂質は100gあたり3.7gとわずかですが、脂肪酸の半分以上をEPA(100gあたり1,200mg)が占めており、これはほかの植物や海藻にはない特徴です。1枚あたりのEPAは成分表の値で約36mg、佐賀大学の報告では60mg前後と、青魚に比べると少量です。さらに海苔のEPAは消化されにくいポルフィランに包まれ、多くは吸収されずに排泄されていると考えられています。麹で発酵させるとEPAが遊離することや、マウスで海苔の脂質が脂肪肝を軽減したことが報告されていますが、ヒトでの効果はまだ分かっていません。EPAをとるなら青魚が基本で、海苔はほぼカロリーを増やさずに少し上乗せできる食品と考えましょう。

🌿 毎日の1枚で、EPAを少し上乗せ

脂質はわずかなのに、その半分以上がEPAという珍しい食品が海苔です。毎日続けやすい味付けなしの焼き海苔をどうぞ。

※リンクから購入いただくと当サイトに紹介料が入ります(お客様の価格は変わりません)

類似投稿

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 ※ が付いている欄は必須項目です