焼き海苔の「えび・かにが混ざる漁法で採取しています」表示はなぜある?アレルギー表示の仕組みを解説
焼き海苔のパッケージの裏をよく見ると、「本品で使用している海苔は、えび・かにが混ざる漁法で採取しています」といった一文が書かれていることがあります。原材料は海苔だけのはずなのに、なぜえびやかにの話が出てくるのでしょうか。実はこの表示は、食物アレルギーのある人が安全に食品を選べるようにするための、国のルールにもとづいたものです。この記事では、消費者庁の食物アレルギー表示のハンドブックや食品安全委員会の資料をもとに、海苔にえびやかにが混ざる理由、アレルギー表示の仕組み、そして甲殻類アレルギーのある人が知っておきたい考え方を解説します。
えび・かには表示が義務づけられた「特定原材料」
日本では、容器包装された加工食品について、食物アレルギーの原因となる原材料の表示が食品表示法にもとづいて定められています。消費者庁によると、症例数や症状の重さから特に表示の必要性が高い品目が「特定原材料」として指定され、表示が義務づけられています。2026年4月時点の特定原材料は、えび、カシューナッツ、かに、くるみ、小麦、そば、卵、乳、落花生(ピーナッツ)の9品目です。
このほか、アーモンドやいか、さけ、大豆など20品目が「特定原材料に準ずるもの」として、表示が推奨されています。消費者庁は、えびとかにが特定原材料に指定されている理由として、成人になってから新たに発症する人や、誤って食べてしまう事故が多いことを挙げています。食物アレルギーは子どもの病気というイメージがありますが、えび・かにのアレルギーは大人にとっても身近な問題なのです。
表示の対象となる「えび」「かに」の範囲も細かく決められています。「えび」には、くるまえび類、しばえび類、さくらえび類、てながえび類などに加え、いせえびやロブスターなども含まれます。一方、しゃこ類、あみ類、おきあみ類は、分類上「その他の甲殻類」とされ、表示の対象外です。
いせえびやロブスターなどは、かつては表示の範囲外でしたが、食物アレルギーの研究班の調査結果を受けて、新たに「えび」の範囲に含められました。
特定原材料の品目は固定されたものではありません。消費者庁は、全国のアレルギー専門医を対象とした実態調査をおおむね3年ごとに行い、症例数や重症度を踏まえて特定原材料を見直しています。表示では、「えび」のかわりに「海老」「エビ」と書くこと(代替表記)や、「えび天ぷら」「サクラエビ」のように原材料名からえびを使っていることがわかる書き方(拡大表記)も認められています。
なぜ海苔にえびやかにが混ざるのか
海苔は、海に張った網で育てる養殖の海藻です。自然の海で数週間かけて育つため、小さなえびやかにの仲間が海苔や網に紛れ込むことがあります。海苔を摘み取る際には、こうした生き物も一緒に取り込まれてしまうことがあるのです。
食品安全委員会の資料でも、水産物では捕食(魚がえびを食べている)や共生(あさりにかにがすみついている)による混入に加えて、漁獲中の混入があり、その例として「しらすやのり製品へのえび・かにの混入」が挙げられています。そして、ほかの特定原材料と違って、水産加工品への加工工程で確実に混入を避けることが難しい場合があると指摘されています。
実際、海苔の生産現場でもこのことは知られています。有明海の佐賀県では、海苔の等級を決める格付けの区分のひとつに、小エビのかけらが混じった海苔を示す「エビ」という区分があります。生産者は摘み取った海苔を洗い、異物を取り除いてから板状に加工しますが、自然の海で育つ以上、目に見えないほど小さなかけらまで完全に取り除くのは容易ではありません。
「可能性表示」は禁止。表示のルールはこうなっている
では、海苔のパッケージの一文は、どのようなルールで書かれているのでしょうか。消費者庁の考え方は、混入の程度によって次のように整理されています。
| 混入の状況 | 表示の扱い |
|---|---|
| 必ず混入する | 原材料の一部とみなし、アレルギー表示(「えびを含む」など)が必要 |
| 対策をしても混入の可能性を排除できない | 原材料表示の枠外に「注意喚起表示」を行うことが望ましい |
| 混入の頻度や量が少ない | 注意喚起表示は必要ない(患者の食品選択の幅を過度に狭めないため) |
出典:消費者庁「加工食品の食物アレルギー表示ハンドブック」をもとに作成。
海苔の「えび・かにが混ざる漁法で採取しています」という表示は、この2番目の注意喚起表示にあたります。消費者庁の表示Q&Aでは、原材料の採取方法による混入の注意喚起の例として、「本製品で使用しているしらすは、かにが混ざる漁法で採取しています」という文例が示されており、海苔の表示もこれと同じ形です。注意喚起表示は義務ではなく、メーカーの判断で行われるもので、すべての海苔製品に書かれているわけではありません。
一方で、はっきり禁止されているのが「可能性表示」です。「入っているかもしれません」「入っている場合があります」といったあいまいな表現は、原材料表示の枠外であっても認められていません。注意喚起をするなら、なぜ混入するおそれがあるのかを具体的に示す必要があるため、「混ざる漁法で採取しています」という、混入の理由まで書いた表現になっているのです。
消費者庁の資料には、原材料の採取方法による混入のほかにも、注意喚起表示の文例が示されています。たとえば、えびやかにを食べている魚を使う場合は「本製品(かまぼこ)で使用しているイトヨリダイは、えびを食べています」、同じ工場の製造ラインで特定原材料を使っている場合は「本品製造工場では○○を含む製品を生産しています」といった書き方です。いずれも、混入するおそれのある理由を具体的に示している点が共通しています。
なお、網で一緒にとれた魚介類を分けずに原料にした魚醤などでは、「魚醤(魚介類)」と表示すれば、えびやかにを含む旨の表示を別にしなくてもよいとされています。原料の性質上、えびやかにが含まれることが前提になっているためです。海苔とは扱いが異なりますが、水産物の表示ならではのルールといえます。
海の中では、海藻のまわりに小さなえびやかにの仲間など多くの生き物が暮らしている
甲殻類アレルギーのある人はどう判断すればいい?
では、甲殻類アレルギーのある人は、この表示がある海苔を食べてはいけないのでしょうか。食品安全委員会のファクトシートは、日本小児アレルギー学会のガイドラインなどを引用して、次のように説明しています。
甲殻類アレルギーの患者の食事指導では、甲殻類をひとくくりにして除去する必要はなく、血液検査や食物経口負荷試験などで一人ひとりの症状の有無を確認することとされています。そのうえで、えび・かにの注意喚起表示がある水産加工品であっても、特定原材料に対する重度の患者でなければ、基本的には食べられることが多いとされています。一方、重度の甲殻類アレルギーの患者では、調味料やスナック菓子に含まれるエキスまで除去する場合もあります。
つまり、注意喚起表示のある海苔を食べてよいかどうかは、アレルギーの重さによって異なるということです。自分や家族に甲殻類アレルギーがある場合は、自己判断せず、主治医に「注意喚起表示のある食品をどう扱えばよいか」を確認しておきましょう。なお、甲殻類を食事から除いても、基本的には栄養上の問題は生じにくいとされています。
また、パッケージに「えび・かにを使用していません」と書かれていることがありますが、消費者庁は、この「使用していない旨」の表示は必ずしも「含んでいない」ことを意味するものではなく、製造記録などで使用の有無を確認したことを意味するものだと説明しています。意図しない混入のおそれがある場合には、別に注意喚起表示が必要です。表示の言葉の意味を正確に理解しておくことが、アレルギーのある人の食品選びでは大切です。
表示の検査の仕組みと、知っておきたいポイント
アレルギー表示が正しく行われているかは、各都道府県の保健所などが製造記録や検査で定期的に確認しています。消費者庁の基準では、食品1gあたりに特定原材料由来のたんぱく質が10μg以上検出された場合、微量を超える特定原材料が混入している可能性があると判断されます。ただし、えびとかにはこの検査では区別できず、「甲殻類」としてまとめて検出されます。
食品安全委員会がまとめた自治体の検査結果では、えび・かにの表示がない加工食品154件を調べたところ、えび・かにのたんぱく質が検出されたのは38件で、その71%(27件)は魚肉練り製品でした。10μg以上検出されたのは7件でした。水産物を原料とする加工食品では、意図しない混入が起こりうることがわかります。
最後に、海苔を選ぶときのポイントをまとめておきます。甲殻類アレルギーがない人にとって、この表示は品質の問題を示すものではなく、自然の海で育った食品であることの裏返しともいえます。一方、アレルギーがある人は、海苔だけでなく、しらすや練り製品、海苔を使ったおにぎりやお菓子など、水産物を使った加工食品全般で注意喚起表示を確認する習慣をつけておくと安心です。表示の意味を正しく知ることが、必要以上に怖がらず、必要なところでしっかり注意するための第一歩です。
この記事のまとめ
焼き海苔の「えび・かにが混ざる漁法で採取しています」という表示は、消費者庁のルールにもとづく注意喚起表示です。えびとかには、成人での新規発症や誤食が多いことから、表示が義務づけられた特定原材料9品目に含まれています。海で育つ海苔には小さなえびやかにが付くことがあり、加工しても完全に取り除くのは難しいため、混入の理由を示した表示が行われます。「入っているかもしれません」のような可能性表示は禁止されています。注意喚起表示のある食品を食べられるかはアレルギーの重さによって異なるため、甲殻類アレルギーのある人は主治医に確認しましょう。