一番摘み・二番摘みは何が違う?海苔の9段階の等級と入札の仕組み、最高級「有明海一番」の基準
海苔のパッケージで「一番摘み」「初摘み」という言葉を見かけることがあります。高級な海苔ほどこの表示が目立ちますが、そもそも何が「一番」なのでしょうか。また、海苔の値段は同じ産地でも数倍から、ときには十倍以上も違います。その差を決めているのが、漁協の検査員による等級の格付けと、海苔問屋や商社が値段をつける入札会(共販)です。この記事では、学術論文や産地の公開資料をもとに、一番摘みの意味、9段階の等級と数百通りにもおよぶ格付けの仕組み、そして最高級ブランド「佐賀海苔 有明海一番」の基準を解説します。
海苔は「摘み取り」を繰り返して収穫する:一番摘みとは
海苔の養殖では、海苔の芽が付いた網を海に張り、葉が伸びたところを摘み取ります。摘み取ったあとも根元から再び葉が伸びるため、同じ網から何度も収穫できます。このうち、網を張ってから最初に摘み取った海苔が「一番摘み(初摘み)」、2回目が「二番摘み」です。一番摘みは若い芽を摘んだものなので、葉が柔らかく、口どけが良いとされています。摘み取りを重ねるにつれて、葉は厚く硬くなっていく傾向があります。海苔増殖振興会によると、網に芽を付けてから最初の摘み取りまではおよそ30日で、その間に芽は葉長30cmほどに育ちます。
「口どけ」は感覚だけでなく、数値でも測られています。佐賀県の水産研究機関では、食感測定器を使って海苔が噛み切れるまでの「咀嚼回数」を測定しており、ある試験では処理の違いによって31.0回と21.0回という差が確認されました。回数が少ないほど口どけが良いことを意味し、後で紹介する最高級ブランドの基準にもこの指標が使われています。同じ試験では、乾海苔の粗たんぱく質含有率も約40%と測定されており、海苔の品質評価には見た目だけでなく、食感や成分の数値も活用されています。
さらに多くの産地では、1シーズンに2つの時期に分けて収穫しています。秋に網を張ってそのまま育てる秋芽網と、芽を付けた網をいったん冷凍庫で保存し、年明けの寒い時期に海に張り直す冷凍網です。つまり、一番摘みのチャンスは秋芽網と冷凍網でそれぞれ1回、1シーズンに2回しかありません。海苔の専門商社の社長は、本来は12月から1月の最も寒い時期にとれる冷凍網の一番摘みが最もおいしいと話しています。
ただし「一番摘み=必ず最高級」というわけではありません。同じ一番摘みでも、海の栄養の状態や天候、生産者の加工技術によって品質は大きく変わります。そこで重要になるのが、1枚1枚の海苔の品質を評価する等級の格付けです。
等級を決めるのは検査員:品質・色沢・香味で9段階
生産者は、摘み取った海苔を洗って刻み、紙すきのように19×21cmの板状に成形して乾燥させます。できあがった乾海苔は10枚で1帖(じょう)、100枚で1束(そく)とまとめられ、有明海では36束(3,600枚)を1箱に詰めて漁協に運びます。漁協では、専門の格付検査員がこれを1束ずつ評価します。
地域漁業学会の論文によると、福岡県では海苔を「品質」「色沢」「香味」の3つの観点で評価しています。品質は原藻の良し悪しとすき方、色沢は黒褐色の濃さと光沢、香味は香りと味の良し悪しです。これらを総合して、優等・特等・一等から七等までの9段階に格付けされます。佐賀県も同じく9段階です。さらに、秋芽か冷凍か、何回目の摘み取りか、何回目の入札会に出すかによって、1束の基準重量まで細かく決められています。たとえば佐賀県で冷凍網から摘み取り第3回入札会に出す海苔は、1束の基準重量が290〜330gと定められています。
摘み取りの回数によって基準重量が変わる例は、ほかの産地にもあります。ある漁協の入札会の出品案内では、1束の基準重量を初摘みは320〜360g(基準340g)、2回摘み以降は300〜340g(基準320g)と分けて定めていました。また、乾海苔は水分15%以下まで乾燥させることなども、生産者が守るべき基準として決められています。重さや乾燥度がそろっていることで、商社は安定した品質の製品を作ることができるのです。
| 評価の観点 | 見ているポイント |
|---|---|
| 品質 | 原藻(原料の海苔)の良し悪しと、すき方 |
| 色沢 | 黒褐色の濃さと光沢 |
| 香味 | 香りと味の良し悪し |
出典:地域漁業研究 第64巻第3号「福岡県と佐賀県における海苔の格付」。
福岡は512通り:驚くほど細かい格付けの世界
海苔の格付けは、9段階の等級だけでは終わりません。等級に加えて、海苔の特徴を表す「品種」と呼ばれる区分が組み合わされます。佐賀県の例では、初摘みを表す「初」「壱」、艶が少し足りない「黒」、破れや縮みが少し混ざる「B」、小さな穴がある「◯」、乾燥による曇りがある「ク」、青のり類が自然に7%未満混じった「飛」、小エビのかけらが混じった「エビ」、赤芽で色が浅い「A」などがあります。
この等級と品種の組み合わせにより、格付けの総数は福岡県で512通り、佐賀県で202通りにのぼります。同じ有明海の海苔でも、県によって格付けの細かさが大きく違うのです。佐賀県の「初」は、初摘みが始まって生産者の15%が摘み始めた翌日から3日間に摘み取られたものと定義されるなど、時期についても厳密なルールがあります。こうした細かな格付けがあるからこそ、商社は用途に合った海苔を的確に選び、適正な価格をつけることができます。
区分の中には、海苔が育つ海の様子を映すものもあります。たとえば「飛」は、青のりが海苔に自然に付着したもので、香りづけのために意図的に青のりを混ぜた他地域の「青混ぜ」とは区別されています。「別」は、赤腐れ病という病気によって斑点が入ったものです。また「エビ」は小エビのかけらが混じったもので、海苔が小さなエビやカニの暮らす海で育つことを示しています。等級表は、海苔という食材が自然の海で育つ生き物であることを、そのまま記録しているともいえます。
海苔の格付けは、等級と品種の組み合わせで数百通りにもなる
入札会(共販)の仕組み:同じ海苔が1枚10円にも300円にもなる
格付けされた海苔は、漁連が開く入札会(共販)に出品されます。入札会は例年11月後半から翌年5月上旬まで、各産地で10〜15回ほど開かれ、海苔問屋や商社が等級ごとの見本を確かめて入札し、最も高い値をつけた業者が落札します。私たちが店頭で目にする海苔の価格は、この入札で決まった原料価格が出発点になっています。
入札会の平均単価は、年や時期によって大きく変わります。2025年度の全国の平均単価は1枚16.95円でしたが、佐賀有明の初入札では品質の良い一番摘みがまとまって出品され、平均51.75円と、その年度の最高値を記録しました。さらに、後で紹介する最高級ブランド「有明海一番」は、2023年の秋芽網の初入札で1枚355円と、平均単価の10倍以上の値がついています。同じ有明海の海苔でも、等級と時期によってこれほどの差が生まれるのです。
2025年度の初入札の流れを見ると、産地ごとの品質の違いが価格にはっきり表れています。11月27日の宮城の初共販は平均27.67円で始まり、12月6日の千葉は37.82円、8日の愛知は37.26円でした。有明海では14日の福岡有明が34.04円、翌15日の佐賀有明が1億1,667万枚の出品で51.75円に達しています。その後、漁期が進んで生産量が増えるにつれて平均単価は下がり、年度全体では16.95円となりました。漁期の最初にとれる一番摘みが高値で取引されることがよくわかります。
最高級「有明海一番」と、色より味を評価する「味推」
佐賀県の最高級ブランド「佐賀海苔 有明海一番」は、格付けに加えて厳しい独自基準を満たした海苔だけが名乗れます。対象は秋芽網・冷凍網の一番摘みに限られ、ひと網から摘み取る量を300枚以内に絞った柔らかい若芽であることが条件です。そのうえで、うま味のもとになるたんぱく質の含有量が50%以上、食感測定器で測った口どけが20回以内という数値基準をクリアし、最後に商社の幹部や料理人などの検査員が実際に味わって、うま味・香り・柔らかさを評価します。認定されるのは1万枚に3枚ほどとされる希少品です。不作が続いた2024年度には認定品が出ず、2025年12月に2季ぶりに認定されました。このときは秋芽の海苔331本(1本3,500枚)が出品され、数値基準などを通過した51本(17万8,500枚)が食味検査に進み、そのすべてが認定されています。
興味深いのは、佐賀県の格付けにある「味推(あじすい)」という等級です。有明海の海苔は一般に色が黒いほど価値が高いとされますが、「味推」は小さな穴があったり色がそれほど黒くなかったりしても、味と柔らかさが優れた海苔を評価する区分です。以前なら見た目で低く評価されていた海苔が、この区分の導入でより高値で取引されるようになりました。最上位の「味推上特」は10年に1回出るかどうかといわれるほど希少です。
消費者として一番摘みの海苔を選ぶなら、パッケージの「一番摘み」「初摘み」表示に加え、色が黒く、つやがあり、光に透かしたときにむらや穴が少ないものが目安になります。贈答用の高級品では、「有明海一番」のような産地独自の認定も品質の手がかりになります。
この記事のまとめ
一番摘みとは、網を張って最初に摘み取った若い海苔のことで、柔らかく口どけが良いのが特徴です。秋芽網と冷凍網でそれぞれ1回ずつ、1シーズンに2回しかとれません。海苔は漁協の検査員によって品質・色沢・香味の3つの観点から優等〜七等の9段階に格付けされ、品種区分との組み合わせで福岡では512通り、佐賀では202通りにもなります。格付けされた海苔は入札会で取引され、2025年度の平均単価16.95円に対し、最高級の「有明海一番」には1枚355円の値がついた例もあります。たんぱく質50%以上、口どけ20回以内などの厳しい基準を満たすのは1万枚に3枚ほどです。