海苔を毎日食べると何が変わる?日本人18万人の追跡研究が示す海藻と心臓・脳の健康

「海藻は体にいい」とはよく聞きますが、それは本当に確かめられたことなのでしょうか。栄養成分表を見れば、海苔に食物繊維やビタミンが多いことはわかります。しかし、成分が多いことと、食べ続けた人が実際に健康でいられることは別の問題です。この問いに答えるには、多くの人の食習慣を記録し、何年にもわたってその後の病気を追いかけるコホート研究が必要になります。日本では、海藻の摂取頻度と心臓病・脳卒中の関係を調べた大規模な追跡研究が2019年以降に相次いで発表されました。この記事では、合わせて約18万人を追跡した2つの研究の結果と、その読み方、そして海苔を毎日の食事に取り入れる現実的な方法を解説します。
日本人8.6万人を20年追跡:「ほぼ毎日」で心臓病リスクが低い
最初に紹介するのは、国立がん研究センターなどによる多目的コホート研究(JPHC研究)です。1990年と1993〜94年に、岩手県二戸から沖縄県宮古までの9つの保健所管内に住んでいた40〜69歳の男女のうち、がんや循環器疾患の既往がない86,113人(男性40,707人、女性45,406人)を約20年間追跡しました。研究開始時の食事アンケートで海藻を食べる頻度を尋ね、「ほとんど食べない」「週1〜2日」「週3〜4日」「ほとんど毎日」の4グループに分けて、その後の病気の発症を比べています。
追跡期間中に4,777人が脳卒中を、1,204人が虚血性心疾患(心筋梗塞など)を発症しました。年齢や喫煙、飲酒などの影響を統計的に取り除いて比較すると、海藻を「ほとんど毎日」食べるグループは、「ほとんど食べない」グループに比べて、虚血性心疾患の発症リスクが男性で24%、女性で44%低いという結果でした。研究グループは、海藻摂取と虚血性心疾患リスクの低下の関連を男女で示した世界で初めての報告だとしています。この成果は2019年に米国の臨床栄養学誌(American Journal of Clinical Nutrition)に掲載されました。
注目したいのは、この関連が「健康的な食生活の人が海藻もよく食べている」だけでは説明しきれない点です。研究では、野菜・果物・大豆製品・魚・緑茶といった、健康的な食事パターンに含まれる食品の摂取も統計的に調整していますが、それでも結果は変わりませんでした。一方で、脳卒中の発症については、海藻の摂取頻度との関連は見られませんでした。
9.6万人の研究では、脳卒中による死亡との関連も
もうひとつの大規模研究が、全国45地域の住民を対象にしたJACC研究です。1988〜90年に40〜79歳だった男女のうち、96,215人(男性40,234人、女性55,981人)を追跡し、海藻の摂取頻度と循環器疾患による死亡との関連を調べ、2020年に日本動脈硬化学会の学術誌に発表されました。追跡期間中に、6,525人が循環器疾患で亡くなっています。
解析の結果、海藻を「ほとんど毎日」食べる人は「まったく食べない」人に比べて、女性では循環器疾患による死亡リスクが28%低く、脳梗塞による死亡リスクは約半分でした。男性でも、脳卒中全体による死亡リスクが30%低いという結果が出ています。こちらの研究では、心筋梗塞などの冠動脈疾患による死亡との関連は見られませんでした。
2つの研究で結果が一部食い違うのは、なぜでしょうか。JACC研究の論文は、その理由を次のように考察しています。JPHC研究では最も少ないグループが「週1日未満(ほとんど食べない)」だったのに対し、JACC研究では「まったく食べない」人を分けて比較していたため、海藻をまったく食べない人の脳卒中リスクの高さを捉えられた可能性があります。また、発症を調べたか死亡を調べたかという違いや、死亡診断書の病名の正確さも影響していると考えられています。細部は異なるものの、どちらの研究も「海藻をよく食べる人ほど循環器疾患のリスクが低い」という同じ方向を示しています。
研究では、野菜や魚など他の食品の影響を調整しても海藻摂取と心臓病リスクの関連は残った
この研究結果をどう読むか:観察研究の3つの限界
ここまで読むと「海苔を毎日食べれば心臓病を防げる」と言いたくなりますが、結論を急ぐ前に知っておきたい点が3つあります。1つ目は、これらが観察研究であることです。食習慣と病気の「関連」は示せても、海藻が病気を防いだという「因果関係」までは証明できません。JACC研究でも、海藻をよく食べる人は運動習慣がある、喫煙が少ないといった傾向があり、統計的な調整をしても、測りきれなかった生活習慣の違いが残っている可能性は否定できません。
2つ目は、調べたのが「海藻全体」の摂取頻度だという点です。アンケートでは海苔・わかめ・昆布・ひじきなどを区別しておらず、海苔だけの効果はわかりません。3つ目は、食べた「量」ではなく「頻度」で分類していることです。海藻は汁物の具やだし、ふりかけなど少量ずつ使われることが多く、実際の摂取量を推定するのは難しいと論文自体が述べています。
では、なぜ海藻が循環器疾患のリスク低下と関連するのでしょうか。研究グループは、海藻に含まれる食物繊維、カリウム、たんぱく質などが関わっている可能性を挙げています。動物実験では、海藻の成分が血圧を下げたり血中の脂質を改善したりすることが報告されており、脳卒中を起こしやすいラットにわかめを与えると脳卒中の発症が遅れたという研究もあります。ヒトでのメカニズムは、今後の研究を待つ段階です。
毎日の1枚で何がとれるか:焼き海苔1枚の栄養
疫学研究の「ほぼ毎日」を実践するうえで、最も手軽な海藻が焼き海苔です。全形1枚(約3g)でとれる主な栄養素を、日本人の食事摂取基準(2025年版)の成人の値と比べると次のようになります。
| 焼き海苔 全形1枚(約3g) | 含有量 | 成人の基準値に対する割合 |
|---|---|---|
| たんぱく質 | 約1.2g | 推奨量(女性50g)の約2% |
| 食物繊維 | 約1.1g | — |
| ビタミンB12 | 約1.8μg | 目安量(4.0μg)の約4割 |
| 葉酸 | 約38μg | 推奨量(240μg)の約16% |
出典:たんぱく質・食物繊維は日本食品標準成分表2015年版(七訂)、ビタミンB12・葉酸はKoseki, Watanabeら(2023)の市販焼き海苔の分析値(100gあたりB12 58.4μg、葉酸1,259.6μg)から算出。
目を引くのはビタミンB12です。B12は本来、肉・魚・卵など動物性食品にしか含まれないビタミンですが、鳥取大学の渡邉文雄らの2023年の分析では、市販の焼き海苔から100gあたり約58μgのB12が検出され、ヒトが利用できない「偽のB12(シュードビタミンB12)」は含まれていなかったと報告されています。1枚で目安量の約4割に相当する計算です。一方、たんぱく質は1枚では1g程度にとどまります。海苔は100gあたりの数値が非常に高く見えますが、1回に食べる量は数gなので、主役ではなく「毎日の上乗せ」として捉えるのが現実的です。
なお、海苔のB12については異なる見方もあります。1999年に札幌医科大学の山田らが発表した研究では、乾燥させたアサクサノリのB12の約65%が、体内で働かない類似化合物に変化していたと報告されました。ただし、この研究で被験者が食べたのは1日40g、全形でおよそ20枚分という通常の食事をはるかに超える量で、研究者自身も「海苔を避ける必要はない」と述べています。分析方法や原料の種類(アサクサノリとスサビノリ)の違いもあり、B12の供給源としての海苔の評価は、現在も研究が続いているテーマです。
毎日続けるための現実的な食べ方と注意点
疫学研究が示しているのは「たまにたくさん」ではなく「ほぼ毎日」食べる習慣との関連です。朝のご飯に焼き海苔を1〜2枚添える、みそ汁にちぎった海苔を入れる、昼のおにぎりを海苔で巻くなど、決まった食事に組み込むと続けやすくなります。海苔だけでなく、わかめ・もずく・ひじきなど、さまざまな海藻を組み合わせるのもよい方法です。研究が調べたのは海藻全体の摂取であり、種類ごとに含まれる食物繊維やミネラルの特徴も異なるからです。
注意したい点もあります。まず味付け海苔の塩分です。食品成分表では、味付けのりのナトリウムは100gあたり1,700mgと、焼きのり(530mg)の3倍以上あります。毎日食べるなら、味付けのない焼き海苔を基本にするのがおすすめです。また、海藻にはヨウ素が含まれるため、甲状腺の病気で治療中の方は、海藻をどの程度食べてよいか主治医に確認してください。焼き海苔のヨウ素量は昆布に比べてはるかに少ないものの、昆布だしや昆布製品と合わせると摂取量は大きく変わります。
最後に、海苔や海藻は薬ではありません。コホート研究の結果は、禁煙、適度な運動、減塩、野菜や魚を含むバランスのよい食事といった基本的な生活習慣の上に、海藻を「毎日の習慣」として加える価値があることを示唆するものです。焼き海苔1枚は、その習慣を始めるための、最も手軽で続けやすい一歩といえるでしょう。
この記事のまとめ
日本人約8.6万人を20年追跡したJPHC研究では、海藻を「ほぼ毎日」食べる人は「ほとんど食べない」人に比べ、虚血性心疾患の発症リスクが男性で24%、女性で44%低いという結果でした。約9.6万人を対象としたJACC研究でも、海藻をよく食べる人ほど循環器疾患、特に脳梗塞による死亡リスクが低い傾向が見られました。ただしこれらは観察研究で、海藻全体の摂取頻度を調べたものであり、因果関係や海苔単独の効果までは示されていません。焼き海苔1枚ではビタミンB12が目安量の約4割とれる一方、たんぱく質は1g程度です。味付けのない焼き海苔を中心に、さまざまな海藻を「ほぼ毎日」の習慣として取り入れることが、研究結果に沿った現実的な活かし方です。