しけった海苔で作る「海苔の佃煮」|基本の作り方と、市販品の原料・塩分の話
開封してしばらくたった焼き海苔が、湿気を吸ってしんなりしてしまった。そんな経験は誰にでもあるはずです。パリッとした食感は戻らなくても、捨てるのはもったいない。そんなときにおすすめなのが、しょうゆやみりんで煮詰める「海苔の佃煮」です。しけった海苔でも、煮てしまえば食感の違いはほとんど気になりません。ところで、スーパーで売られている瓶詰めの「のりの佃煮」は、実は板海苔とは違う海藻から作られていることが多いのをご存じでしょうか。この記事では、文部科学省の食品成分表や市販品の表示をもとに、海苔の佃煮の原料と栄養・塩分を確認したうえで、家庭で焼き海苔から作る基本の方法、塩分を控えるコツ、保存と活用のアイデアを紹介します。
市販の「のりの佃煮」の原料は、実は板海苔とは別の海藻
瓶入りの「のりの佃煮」の原材料表示を見ると、多くの商品に「ひとえぐさ」と書かれています。ヒトエグサは、青のりやあおさに近い緑藻の仲間で、板海苔の原料であるスサビノリ(紅藻)とは、分類上まったく別の海藻です。文部科学省の日本食品標準成分表の解説でも、「のりのつくだ煮、いわのりと呼ばれ市販されているものは、ひとえぐさを原料としているものが多い」と説明されています。食品成分表でも、のりのつくだ煮は「ひとえぐさ つくだ煮」という名前で収載されています。
実際の商品を見てみましょう。老舗の酒悦の「のり佃煮」は、原料のヒトエグサが浜名湖産71%、伊勢産29%で、しょうゆ・砂糖・みりんで炊き上げたものです。グリーンコープの「のり佃煮」は、ヒトエグサ75%とアマノリ25%を原料にしています。このように、ヒトエグサを主原料に、一部にアマノリを加えた商品もあります。
ヒトエグサの産地としては、三重県が全国の生産量の約6割を占めるほか、静岡県の浜名湖でも養殖が盛んです。ヒトエグサは香りがよく柔らかいため、煮るととろりとした食感になり、佃煮に向いています。一方、家庭で焼き海苔から作る佃煮は、スサビノリならではの濃い磯の香りと、しっかりした旨みが楽しめます。同じ「海苔の佃煮」でも、原料によって風味や食感が異なるのです。
浜名湖とヒトエグサの関わりには、興味深い歴史があります。静岡県水産技術研究所によると、浜名湖では以前、板海苔の原料となる「くろのり」が養殖されていました。しかし昭和40年代後半から50年代にかけて、くろのりの全国的な供給過多による価格の低迷や湖の環境の変化が重なり、ちょうどその頃ヒトエグサの人工採苗の技術が確立したことから、ヒトエグサの養殖へと切り替わっていきました。浜名湖のヒトエグサは「生海苔」としても出荷され、冬の浜名湖の風物詩になっています。
のりの佃煮の栄養と塩分:小さじ1杯でどれくらい?
食品成分表(八訂)に収載されている「ひとえぐさ つくだ煮」の主な成分は次のとおりです。小さじ1杯を約7gとして計算した値も並べました。
| 成分 | 100gあたり | 小さじ1杯(約7g) |
|---|---|---|
| エネルギー | 148kcal | 約10kcal |
| たんぱく質 | 14.4g | 約1.0g |
| 炭水化物 | 21.1g | 約1.5g |
| 食物繊維 | 4.1g | 約0.3g |
| 鉄 | 3.6mg | 約0.25mg |
| 食塩相当量 | 5.8g | 約0.4g |
出典:文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」ひとえぐさ つくだ煮。小さじ1杯あたりは100gあたりの値から換算。
佃煮はしょうゆで煮詰めるため、塩分は100gあたり5.8gと高めです。ただし、ご飯にのせる量は小さじ1杯程度なので、1回あたりの食塩は約0.4gにとどまります。砂糖やみりんが加わるぶん炭水化物も多く、甘辛い味付けがご飯を進ませるので、食べすぎには注意しましょう。
市販品の塩分は、商品によってかなり差があります。たとえば酒悦の「のり佃煮」は1本125gあたり食塩相当量6.0g、塩分控えめをうたうグリーンコープの商品は1食10gあたり0.6gと表示されています。100gあたりに直すと、どちらも4.8〜6.0gほどです。塩分が気になる人は、パッケージの栄養成分表示を見比べて選ぶとよいでしょう。
ちなみに、材料の焼き海苔そのものの食塩相当量は100gあたり1.3gです。佃煮にすると塩分が大きく増えるのは、しょうゆなどの調味料が加わるためです。そのぶん、佃煮は少量でご飯が進む濃い味わいになります。「たくさん食べる」のではなく「少しで満足する」のが、佃煮と上手に付き合うコツといえます。
しけった焼き海苔で作る、基本の海苔の佃煮
ここからは、家庭にある焼き海苔で作る基本の佃煮を紹介します。しけてしまった海苔はもちろん、割れたり端が欠けたりした海苔でも問題なく使えます。材料はシンプルで、調理時間は15分ほどです。
- 焼き海苔:全形5枚(約15g)
- 水:150ml
- しょうゆ:大さじ2
- みりん:大さじ2
- 砂糖:小さじ2(甘めが好みなら大さじ1)
作り方は次のとおりです。
- ①焼き海苔を小さくちぎって鍋に入れ、水を加えて5分ほど置き、海苔をふやかす
- ②しょうゆ、みりん、砂糖を加えて中火にかけ、煮立ったら弱火にする
- ③木べらで混ぜながら、海苔の形がなくなりとろりとするまで10分ほど煮詰める
- ④汁気がほとんどなくなり、木べらで鍋底に筋が描けるくらいになったら火を止める
- ⑤粗熱をとってから、清潔な保存容器に移す
ポイントは、最初に水で海苔をしっかりふやかすことです。乾いたまま調味料と煮ると、海苔がだまになって均一に味がしみ込みません。また、煮詰める終盤は焦げやすいので、弱火でこまめに混ぜることが大切です。冷めると少し固くなるので、火を止めるのは「少しゆるいかな」と感じるくらいがちょうどよい目安です。
材料の海苔は、焼き海苔でなくてもかまいません。乾燥したあおさやヒトエグサを使えば、市販品に近いとろりとした食感と香りの佃煮になります。農林水産省によると、三重県産のあおさ(ヒトエグサ)も、昔から佃煮の原料として使われてきました。岩のりを使うと、磯の香りが強く、歯ごたえの残る佃煮になります。いくつかの海苔で作り比べてみるのも楽しいでしょう。
海苔の佃煮は、ご飯のお供のほか、おにぎりや卵焼きの具にも使える
塩分を控えるコツと、旨みを増すアレンジ
手作りの良さは、塩分や甘さを自分で調整できることです。上の分量では、こいくちしょうゆ大さじ2(約36g)に食塩が約5.2g含まれます(食品成分表の食塩相当量14.5g/100gから計算)。塩分を控えたい場合は、しょうゆを大さじ1〜1.5に減らし、そのぶん水をかつおだしに置き換えるのがおすすめです。
市販の減塩しょうゆを使うのもひとつの方法です。また、砂糖やみりんを減らしすぎると照りが出にくく、ぼんやりした味になりやすいので、甘さは好みに合わせて少しずつ調整しましょう。煮詰める時間を長くして水分をしっかり飛ばすと、味が凝縮して少ない調味料でもしっかりした味に感じられます。
だしを使うのには理由があります。海苔には昆布と同じうま味成分のグルタミン酸が含まれ、かつお節にはイノシン酸が含まれます。この2つが合わさると、うま味が単独のときの数倍に強く感じられる「うま味の相乗効果」が起こります。だしのうま味がしっかりしていれば、しょうゆを減らしても物足りなさを感じにくくなるのです。仕上げにかつお節をひとつかみ混ぜ込む「おかか入り」も、同じ理由で満足感のある味になります。
ほかにも、次のようなアレンジが楽しめます。
- しょうが入り:せん切りのしょうがを加えると、さっぱりとした後味に
- ごま入り:火を止めてから白ごまを混ぜると、香ばしさと食感がプラス
- 梅入り:たたいた梅干しを少量混ぜると、酸味で塩分控えめでも味が締まる
- 唐辛子入り:一味唐辛子や輪切りの唐辛子で、ピリ辛の大人向けの味に
保存方法と、ご飯以外の活用アイデア
手作りの佃煮は、市販品のように長期保存を前提としたものではありません。粗熱がとれたら、熱湯や食品用アルコールで清潔にした保存容器に入れて冷蔵庫で保存し、1週間程度を目安に早めに食べきりましょう。取り出すときは、毎回清潔な乾いたスプーンを使うことも大切です。すぐに食べきれない場合は、小分けにしてラップで包み、冷凍しておくこともできます。
冷凍する場合は、製氷皿などで1回分ずつ固めてから保存袋に移すと、使う分だけ取り出せて便利です。使うときは冷蔵庫で自然解凍するか、そのままおにぎりの具にしてもかまいません。一度解凍したものを再び冷凍するのは避け、早めに食べきりましょう。
海苔の佃煮は、白いご飯にのせるだけでなく、さまざまな料理に活用できます。
- おにぎりの具:ご飯に混ぜ込んでも、中に包んでも
- 卵焼き:溶き卵に混ぜて焼くと、だし巻き風の味わいに
- 冷ややっこ:豆腐にのせて、しょうゆ代わりに
- 和風パスタ:バターと合わせてゆでたパスタにからめる
- 海苔チーズトースト:食パンに薄く塗り、チーズをのせて焼く
- 納豆に混ぜる:付属のたれの代わりに使うと風味が増す
湿気てしまった海苔は、失敗ではなく、佃煮という別のおいしさへの入り口です。市販品を買うときは原料や塩分を、手作りするときはだしを上手に使って、海苔を最後の1枚までおいしく楽しんでください。
この記事のまとめ
市販の「のりの佃煮」の多くは、板海苔の原料であるスサビノリではなく、緑藻のヒトエグサを原料にしています。食品成分表では100gあたり148kcal、食塩相当量5.8gで、小さじ1杯(約7g)では約10kcal、食塩約0.4gです。家庭では、しけった焼き海苔5枚を水でふやかし、しょうゆ・みりん・砂糖で10分ほど煮詰めるだけで佃煮が作れます。水をかつおだしに置き換えると、うま味の相乗効果でしょうゆを減らしても満足感のある味になります。手作りの佃煮は冷蔵で1週間程度を目安に食べきり、ご飯のほか卵焼きやパスタ、トーストにも活用しましょう。