嵐の海

海苔の価格はなぜ高騰し、なぜ下がったのか?生産量半減と温暖化をデータで読む

ここ数年、スーパーの海苔の値段が上がったと感じている人は多いはずです。コンビニのおにぎりが値上がりしたり、海苔を巻かない商品が増えたりしたのも、同じ流れの中にあります。背景にあるのは、海苔の生産量の大幅な減少です。全国の乾海苔の生産量は、2001年度の約107億枚から、2025年度には約54億枚へとほぼ半減しました。一方で、2024年度に過去最高を記録した取引価格は、2025年度には大きく下がっています。この記事では、全国漁連のり事業推進協議会などが公表しているデータをもとに、海苔の価格がなぜ高騰し、なぜ下がったのか、そしてその根本にある海の変化を解説します。

20年で生産量はほぼ半減:「100億枚時代」から「50億枚時代」へ

日本の板海苔は、各地の漁業協同組合連合会が開く入札会(共販)を通じて、海苔問屋や商社に販売されます。共販に出される枚数はほぼ生産枚数と同じとみなされ、業界ではこれを「生産量」と呼んでいます。標準的な乾海苔は1枚19×21cm、約3gです。

読売新聞が2026年3月に報じた全国漁連のり事業推進協議会のデータによると、国内の生産量は2001年度の106.8億枚から、2024年度には59.4億枚へと、ほぼ半分に落ち込みました。さらに2025年度(2025年11月〜2026年5月)の最終的な共販枚数は54億2,984万枚と、前年度をさらに約5億枚下回っています。日刊水産経済新聞は、かつて100億枚といわれた乾海苔の生産が「50億枚時代」に突入したと伝えています。近年の生産量と平均単価の推移をまとめると、次のようになります。

海苔年度 共販枚数 1枚あたり平均単価
2021年度 — 11.75円
2022年度 50億枚未満 17.24円
2023年度 約49.4億枚 23.95円
2024年度 約59.5億枚 24.13円(過去最高)
2025年度 約54.3億枚 16.95円

出典:全国漁連のり事業推進協議会の発表(食品新聞 2025年2月5日・5月16日、2026年6月8日の報道による)。海苔年度は11月〜翌年5月頃の漁期。

2021年度に11円台だった平均単価は、わずか3年で2倍を超えました。2024年度の共販金額は1,435億円と過去最高に達しています。その後2025年度には16.95円まで下がりましたが、それでも2021年度と比べると4割以上高い水準です。

産地別に見ると、不作の影響は地域によって大きく異なります。2024年度は瀬戸内海の兵庫県が18.98億枚と前年度から6.6億枚増やし、3年連続で日本一となりました。一方、かつて日本一の座にあった佐賀有明は9.64億枚、福岡有明は7.72億枚、熊本は7.66億枚と、有明海の産地は回復しきれませんでした。瀬戸内海では漁期の後半に寒い日が続いて海水温が下がり、雨で海の栄養も戻ったことで大量に生産できた一方、有明海では海況の悪化が続いたのです。

不作の原因①:秋の高水温で養殖の期間が短くなっている

海苔が減った最大の原因として、水産庁などが挙げているのが海水温の上昇です。海苔の養殖は、秋に海水温が下がってから、海苔の胞子を網に付ける「採苗(さいびょう)」を行うことで始まります。例年は10月頃に始まりますが、近年は猛暑の影響で海水温がなかなか下がらず、開始が1か月ほど遅れ、そのぶん養殖できる期間が短くなっています。

特に深刻だったのが2024年度です。有明海では、最初の網(秋芽網)を海に張った11〜12月の時点で、海水温が平年より3℃近くも高かったと報じられています。海苔を早く確保したい商社側の要望もあり、この年は早めに種付けを行いましたが、水温が十分に下がっていなかったため網が健全に育たず、良い海苔がとれませんでした。2025年度も兵庫県では、秋の水温の下がり方が遅く、生産の開始が平年より1週間程度遅れたと県が発表しています。海水温の上昇は、海苔の産地にとって毎年のように向き合わなければならない課題になっています。

高水温は、養殖の最初の工程から影響を与えます。一般財団法人海苔増殖振興会の現地報告によると、福岡県の有明海では、海苔の胞子を網に付ける野外採苗が通常なら3日ほどで終わるところ、高水温のために難航し、1週間ほどかかった年がありました。海苔の芽は水温が高いと弱りやすく、病気にもかかりやすくなります。最初の段階でつまずくと、その後の収穫全体に響いてしまうのです。

不作の原因②③:栄養塩不足による「色落ち」と、魚による食害

2つ目の原因は栄養塩の不足です。海苔は、海水中の窒素やリンなどの栄養塩を吸収して育ちます。栄養塩が足りないと、海苔は黒い色素を十分に作れず黄色っぽくなり、商品価値が大きく下がってしまいます。これが「色落ち」です。2022年度には、栄養塩を大量に消費する植物プランクトン「ユーカンピア」による赤潮が発生し、漁期を通じて色落ちが続きました。

栄養塩は主に川から海に運ばれるため、雨の量にも左右されます。2024年度の佐賀県では、12月の降水量が平年の2割にとどまった地区もあり、海への栄養の補給が途絶えました。2025年度には、兵庫県の播磨灘で1月中旬に栄養塩濃度が急減し、色落ちが著しい一部の地域では生産を早めに終えています。

3つ目は魚による食害です。海水温の上昇で活発になったクロダイなどが、網に育った海苔を食べてしまう被害が各地で出ています。高水温、栄養塩不足、食害という複数の要因が重なり、以前のように安定して海苔を育てることが難しくなっているのです。

海面に漂う海藻

海苔は海水中の栄養塩を吸収して育つ。雨が少ないと川からの栄養の供給が減り、色落ちが起きやすくなる

価格はなぜ過去最高になり、なぜ下がったのか

2024年度の生産量は前年度を約10億枚上回ったにもかかわらず、平均単価は過去最高を記録しました。食品新聞は、その理由を2つ挙げています。1つ目は、2年続いた不作で、海苔問屋や商社が前年から持ち越す在庫が底をついていたこと。2つ目は、商品にしやすい品質の良い海苔が少なかったことです。平年なら買い手がつかなかった品質の海苔まで落札されたため、品質の良い海苔に限ればさらに高値になっていました。

この原料高は、店頭の価格に直結しました。ギフト用海苔を扱う山本山は、仕入れコストが4〜5年で2倍になったとして、2026年3月から焼き海苔を中心に約2割値上げしています。別の大手メーカーでは、「佐賀県有明産」などの産地表示を「国産」に切り替え、複数の産地の海苔を使えるようにして量を確保する動きも出ました。コンビニのおにぎりなどでは、韓国や中国からの輸入海苔への切り替えも進みました。韓国の生産量は日本の3倍以上の200億枚超とされ、平均単価も日本より大幅に安いためです。

輸入海苔の使い方にも工夫が見られます。食品新聞によると、韓国の海苔は通常1枚2.2〜2.4gほどで、日本向けには3.0〜3.2gの厚さで作ってもらっていましたが、原料不足と価格高騰が続く中、日本側から2.6〜2.8gでの製造を依頼し、価格を抑えながら枚数を確保する動きがありました。中国産も、入札価格約11.5円に輸入関税1.5円などの経費を足しても1枚13.5〜15円ほどで、日本産より安く調達できます。老舗メーカーの白子も2025年6月に20〜36%の値上げを行っており、家庭向け・業務用の両方で海苔の価格は大きく動きました。

一方、2025年度は状況が変わりました。3年連続の不作だった佐賀県の有明海で、4年ぶりに品質の良い海苔がまとまってとれ、佐賀有明の生産量は14.1億枚と、兵庫県を抜いて4年ぶりに全国1位に返り咲きました。佐賀県有明海漁協は、海水温が下がるのを待ってから種付けした効果が出たと話しています。原料の確保にめどがついたことで、平均単価は前年度より7.18円安い16.95円に落ち着きました。

これからの海苔と、私たちにできること

価格が落ち着いたとはいえ、生産量は54億枚と過去最低水準にあり、構造的な問題は解決していません。日本食糧新聞によると、海苔の生産者は毎年100世帯以上が廃業しており、後継者不足にも歯止めがかかっていません。専門商社の社長は、養殖期間の短縮が続けば、秋芽網と冷凍網の年2回の収穫のうち一方をやめる議論も出てくると指摘します。そうなれば、最もおいしいとされる一番摘みの海苔が減る可能性もあります。

価格の下落は、生産者にとっても手放しで喜べるものではありません。兵庫県の発表によると、2025年度の県内の生産量は12.6億枚で過去5年平均の93%だった一方、1枚あたりの単価は14.0円と過去5年平均の86%、産出額は177億円と76%にとどまりました。燃料費や資材費が上がる中で単価が下がれば、生産者の収入は厳しくなります。海苔の価格は、消費者と生産者の双方にとって持続可能な水準を探る難しい局面にあります。

また、原料高の中で店頭価格を抑えるため、色が浅い(黒くない)海苔の商品も並ぶようになりました。海苔の色は栄養塩の状態を反映しており、色の良し悪しは味や栄養とも関係しています。消費者としては、値段だけでなく、色つやや産地表示を確かめて選ぶことが、品質の良い海苔を作り続ける生産者を支えることにもつながります。

海苔は、海の環境の変化を最も早く映し出す食材のひとつです。毎日の食卓の1枚の向こうには、水温や雨の量、プランクトンや魚の動きといった海の営みがあります。価格の動きの背景を知ることは、身近な海の変化を知ることでもあるのです。

この記事のまとめ

日本の海苔の生産量は2001年度の約107億枚から2025年度には約54億枚とほぼ半減し、「50億枚時代」に入りました。主な原因は、秋の高水温による養殖期間の短縮、少雨や赤潮による栄養塩不足で起きる色落ち、クロダイなどの食害です。不作と在庫の払底で2024年度の平均単価は過去最高の24.13円に達し、店頭価格の値上げや輸入海苔への切り替えが進みました。2025年度は佐賀有明の回復で16.95円に下がったものの、2021年度より4割以上高く、生産者の減少など構造的な課題は続いています。色つやや産地表示を確かめて海苔を選ぶことが、品質の良い海苔を守ることにもつながります。

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